データクレンジングとは、データの誤りや不整合を修正し、その質を向上させるプロセスを指します。ビジネスシーンにおいて、データの正確性や信憑性を保つことは、効果的な意思決定や戦略立案に欠かせません。
データクレンジングは手作業で行うことも可能ですが、時間と手間が掛かるため、多くの企業ではデータクレンジングツールを活用しています。これらのツールは、データのエラーを自動修正してくれるなどさまざまなメリットがあります。
本記事では、データクレンジングの基本から、おすすめのデータクレンジングツールと選び方まで詳しく解説します。自社に合ったデータクレンジングツールの導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
データクレンジングとは
データクレンジング(data cleansing)とは、その言葉のとおり「データの洗浄」を意味します。企業が持つ膨大なデータの中には、間違いや不要な情報が混じっていることが少なくありません。例えば、顧客リストに同一人物の情報が重複していたり、住所が間違っていたりするケースです。データクレンジングは、こうした間違いや不整合を見つけ出し、正確な情報だけに整える作業のことを指します。
データクレンジングを行うことで、企業はより信頼性の高い情報にもとづいた意思決定ができるほか、セールス活動やマーケティング活動に活かすことができます。したがって、データクレンジングはビジネスで使うデータを正確で使いやすい状態に保つための大切なステップといえるでしょう。
データクリーニングや名寄せとの違い
データクレンジングと似た言葉に「データクリーニング(data cleaning)」という言葉もありますが、これはデータクレンジングと同じ意味で使われることが多いです。
一方、名寄せとは、異なるデータソースやリストに登録されている同一の対象(同じ人物や同じ企業)を識別し、一つに統合する作業を指します。名寄せは、データの重複を排除し、一貫性と正確性を確保するために重要です。
例えば、顧客データベースに「株式会社山田商事」という同一企業が二重に登録されている場合、名寄せを行うことで双方を一つのデータとして扱えるようになります。これにより、顧客情報の管理が容易になり、マーケティング活動や顧客対応の精度を高めることができます。
したがって、データクレンジングはデータの誤りを修正したり、不要なデータを削除したりといった広範なプロセスを指す一方で、名寄せは主にデータの重複を解消することに焦点を当てていることが特徴です。
データクレンジングの目的
データクレンジングの目的は、ビジネスが直面する様々な課題を解決するために、データの品質を高めることにあります。企業が保有するデータは、時間と共に不整合や誤りが生じやすく、これらの問題は企業の意思決定プロセスや顧客サービスの質に直接影響を及ぼします。データクレンジングを行うことで、これらのデータの問題を特定し、修正することが目的です。
具体的には、データの型やフォーマットが不揃いであったり、データ入力が徹底されずに欠損している箇所があるなど、データ活用における一般的な課題に対処します。これらの課題は、データの信頼性を低下させ、結果としてビジネスの意思決定やマーケティング戦略の策定に悪影響を及ぼす可能性があります。また、不正確で一貫性のないデータは「ダーティデータ」とも呼ばれ、これを放置することは手間やコストがかかるだけでなく、最悪の場合、顧客の信頼を失うリスクにもつながります。
データクレンジングは、このようなリスクを回避し、データを活用したビジネスプロセスの効率化、正確な意思決定の支援、顧客満足度の向上など、企業にとって重要な価値を提供するための基礎を築きます。
データクレンジングのメリット
データクレンジングは、ビジネスにおけるデータの品質と活用を大幅に向上させることが可能です。ここでは、その主なメリットを詳しく解説します。
生産性の向上
データクレンジングにより、データの整合性と正確性が保証されるため、企業の生産性が向上します。これは、データに関する問題を事前に解決することで、従業員が本来の業務に集中できるようになるからです。例えば、顧客データベースの重複や誤りを修正することで、マーケティングチームは正確なターゲットリストを用いてキャンペーンを実施でき、結果として反応率やROIの向上につながります。最終的に、データクレンジングは時間とリソースの節約に貢献し、企業全体の効率性を高めることに寄与します。
データ分析の精度向上
データクレンジングは、データ分析の精度を高める重要な役割を果たします。不正確なデータや不整合が存在すると、分析結果に誤りが生じ、誤ったビジネス判断を下すリスクがあります。データクレンジングによってこれらの問題を事前に除去することで、分析の信頼性が高まります。たとえば、顧客の購買履歴データから不正確な情報を取り除くことで、より正確な顧客セグメント分析が可能になり、マーケティング戦略の精度が向上します。これにより、企業は市場のニーズに合った製品やサービスを提供することができるようになります。
意思決定の質の向上
正確なデータに基づく意思決定は、ビジネスの成功に不可欠です。データクレンジングを通じて、企業は最新かつ正確なデータに基づいて戦略を立てることができます。例えば、顧客満足度調査のデータから誤情報を除外することで、より正確な顧客のニーズや問題点を把握し、それに基づいた改善策を講じることが可能になります。これにより、企業は競争優位性を維持し、市場での地位を強化することができます。
コスト削減
データクレンジングは、間接的にコスト削減にも寄与します。不正確なデータに基づく意思決定は、無駄な投資や機会損失を引き起こす可能性があります。データクレンジングにより、このようなリスクを最小限に抑えることができます。例えば、顧客データの誤りを修正することで、マーケティングキャンペーンの誤配送を防ぎ、郵送コストを削減することができます。また、正確なデータに基づく効率的な在庫管理により、過剰在庫や品切れによる損失を減らすことが可能です。
データクレンジングの進め方
データクレンジングを効果的に行うには、いくつかのステップを踏むことが大切です。ここでは、データクレンジングの具体的な進め方を紹介します。
重要データの特定
データクレンジングを始める前に、どのデータがビジネスにとって最も重要かを特定することが重要です。これには、ビジネスの目標やKPI(重要業績評価指標)を考慮に入れ、分析や意思決定に直接影響を与えるデータフィールドを識別する作業が含まれます。
特に、何が重要なデータか特定することは、後続のプロセスで注力すべき領域を明確にし、リソースを効率的に配分するために欠かせないプロセスです。
データの収集と整理
重要データを特定したら、該当するデータを収集し、整理します。このステップでは、異なるデータソースからの情報を統合し、データのフォーマットを統一することが目標です。データの整理には、不要な情報の削除や、関連するデータのグルーピングも含まれます。このプロセスを通じて、データの品質とアクセシビリティが向上します。
重複データの削除
データの収集と整理が完了したら、次に重複するデータの特定と削除を行います。重複データは、分析の精度を低下させる原因となるため、このステップは非常に重要です。具体的には、同一の情報を持つレコードの識別と、それらの統合または削除が含まれます。この作業を行うことで、データセットの一貫性と信頼性が保証されます。
欠損データの処理
データセット内の「欠損データ」とは、本来あるべき情報が何らかの理由で記録されていない状態を指します。これは、データ収集時の誤り、回答の欠落、またはシステムの不具合などによって発生することがあります。欠損データを適切に処理することは、データ分析の精度を保つ上で不可欠です。
欠損データの処理方法としては主に2つあります。1つ目は、欠損値を含むレコードを削除する方法です。2つ目は、欠損値を何らかの値で補完する方法です。補完には、平均値や中央値、または他の統計的手法を用いることが一般的です。
どの方法を選択するかは、データの特性や分析の目的によって異なりますが、いずれの場合でも欠損データの処理を通じて、より信頼性の高い分析結果を得ることが目的となります。
クレンジングプロセスの標準化
データクレンジングの効果を持続させるためには、プロセスの標準化が必要です。これには、データクレンジングの手順、責任者、および実施頻度の定義が含まれます。標準化されたプロセスを確立することで、データクレンジングの一貫性と効率性が保証され、ビジネスのデータガバナンスの基盤となります。
定期的なレビューと改善
最後に、データクレンジングプロセスは定期的にレビューし、必要に応じて改善を行う必要があります。このステップでは、プロセスの効果を評価し、新たに発見された課題に対処することが目的です。定期的なレビューを通じて、データクレンジングの手法を最新のビジネスニーズに合わせて進化させることができます。
データクレンジングツールの選び方
データクレンジングを効率的に行うためには、適切なデータクレンジングツールの導入が欠かせません。しかし、データクレンジングツールは数多く存在するため、どれが自社に合うかわからないと感じる方も多いでしょう。ここでは、データクレンジングツールを選ぶ際に考慮すべきポイントを紹介します。
必要な機能が備わっているか
データクレンジングツールは豊富な機能が備わっていますが、ツールによって機能が異なるため、自社にとって必要な機能が備わっているか確認しましょう。
例えば、データクレンジングツールは、データの検証、クリーニング、変換、統合などを一気通貫で対応する必要があります。また、異なるデータソースやフォーマットに対応できる柔軟性も重要です。
誰でも簡単に操作できるか
データクレンジングツールは、専門的な技術や知識がないユーザーでも直感的に操作できることが望ましいです。使いやすいインターフェースを持つツールは、チーム全体での採用を促進し、データクレンジングプロセスの効率化に貢献します。
また、十分なドキュメントやサポート体制が整っているかも、選択の際の重要なポイントです。
成長にあわせて拡張できるか
ビジネスが成長するにつれて、データ量も増加し、データクレンジングのニーズも変化します。そのため、選択するツールは将来的なデータ増加に対応できる拡張性を持っていることが重要です。
例えば、大量のデータを処理した場合でも、システムのパフォーマンスが低下しないことを確認しましょう。
利用料は予算に収まるか
データクレンジングツールのコストは、その機能性やサポート内容によって大きく異なります。予算内で最大の価値を提供するツールを選ぶことが重要です。また、隠れたコストがないか、また将来的に発生する可能性のある追加コストについても検討する必要があります。
セキュリティ体制は十分か
データクレンジングプロセスでは、機密性の高いデータを扱うことがあります。選択するツールがデータのセキュリティとプライバシーを保護するための適切な対策を講じているかを確認してください。データ保護規制への準拠も、重要な選択基準の一つです。
データクレンジングツールおすすめ7選
データクレンジングツールには数多くの種類がありますが、ここではおすすめのデータクレンジングツール7選を紹介します。
AWS Glue DataBrew
出典:AWS Glue DataBrew
AWS Glue DataBrewは、データアナリストやデータサイエンティストがコーディングなしでデータをクリーンアップし、正規化するためのビジュアルデータ準備ツールです。250以上の事前構築された変換を提供し、異常のフィルタリング、データの標準形式への変換、無効な値の修正などのタスクを自動化できます。
AWS Glue DataBrewで、データの準備が完了すると、分析や機械学習プロジェクトに直接使用できます。さらに、データレイク、データウェアハウス、データベースから直接データを接続し、データの品質を評価する高度なデータプロファイリング機能を提供します。
Google Cloud Dataprep
出典:Google Cloud Dataprep
Google Cloud Dataprepは、Trifactaによって提供されるインテリジェントなクラウドデータサービスで、分析、レポート、機械学習に使用する構造化および非構造化データを視覚的に探索、クリーンアップ、準備できます。Dataprepはサーバーレスで、規模に関わらず動作し、デプロイや管理が必要なインフラストラクチャはありません。UI入力ごとに理想的なデータ変換操作を提案、予測するため、コードを書く必要がなく、迅速なデータ探索と異常の検出が可能です。
Azure Data Factory
出典:Azure Data Factory
Azure Data Factoryは、エンタープライズ規模のハイブリッドデータ統合を簡素化するフルマネージドのサーバーレスデータ統合サービスです。90以上の組み込みコネクタを使用して、データソースを視覚的に統合し、ETL(抽出、変換、読み込み)およびELT(抽出、読み込み、変換)プロセスを簡単に構築できます。Azure Data Factoryは、直感的な環境でコードを含まないプロセスを行うことができ、統合されたデータをAzure Synapse Analyticsに提供して、ビジネスの分析情報を得ることができます。
ユーソナー(uSonar)
出典:ユーソナー
ユーソナーは、BtoBマーケティングと営業活動を効率化するためのデータ統合ソリューションを提供します。820万件を超える国内最大級の企業データベースを活用し、顧客データの整備や名寄せ、SFA/MAとの連携によるデータ統合活用を可能にします。ユーソナーを利用することで、受注確率が高く未開拓のターゲットを効率的に抽出し、可視化することができます。また、常時クレンジングされたデータを基に、営業成果の最大化と営業効率化に貢献します。
Talend Data Preparation
出典:Talend Data Preparation
Talend Data Preparationは、セルフサービスのデータプレパレーションツールであり、直感的なUIとデータキュレーション機能を備えています。このツールを使用することで、データアナリストやビジネスアナリストは、膨大なデータセットに対してもエラーを素早く特定し、再利用や共有が簡単に行えるルールを適用できます。リアルタイムでのデータプロファイリング、クレンジング、エンリッチメントを誰でも可能にし、データ統合シナリオにデータプレパレーションを組み込むことができます。
Tableau Prep Builder
出典:Tableau Prep Builder
Tableau Prep Builderは、データの組み合わせ、形式変換、クリーニングを迅速に行うことができるツールです。分析前のデータ準備を視覚的に直接行えるため、数回のクリックで質の高いデータを得られます。Tableau Prep Builderは、オンプレミスやクラウド上のデータベース、スプレッドシートなど、多種多様なデータソースに接続でき、コーディングなしでデータアクセス、結合、クリーニングが行えます。修正したい値を直接選択して変更でき、結果がすぐに見えるため、データ準備にかかる時間を大幅に削減できます。
FORCAS
出典:FORCUS
FORCASは、受注しやすい顧客を可視化し、効率的に売上を最大化する営業DXソリューションです。150万社の高品質な企業データベースと簡単な分析テクノロジー、Salesforce連携を特徴とし、B2Bビジネスの成長を支えます。FORCASを使用することで、業界や企業規模、「増収増益」や「採用傾向」などの条件で企業を絞り込み、営業先リストを作成できます。また、既存顧客リストをアップロードするだけで、受注しやすい企業の傾向を可視化し、営業活動を「最も受注確度の高い顧客」に集中させることが可能です。
まとめ
本記事では、データクレンジングの目的やメリット、実施方法、そしておすすめのデータクレンジングツールを紹介しました。データクレンジングは、ビジネスデータの品質向上と分析の正確性を高めるために欠かせないプロセスです。
また、データクレンジングの効果を最大限に発揮させるには適切なツール選定が欠かせません。機能や操作性など、それぞれの項目を比較検討したうえで、自社にとって最適なツールを導入しましょう。