1. はじめに:社内データだけだと、会議が“感想戦”で終わる
私はID-POSで「売れた/落ちた」は追える一方で、「なぜ動いたのか」を社内データだけで説明しきれない場面に何度も直面してきました。競合の値下げ、EC上での露出増、レビューの悪化——それっぽい仮説は出るのに、裏取りがないと最後は感想戦で終わる。打ち手も検証も曖昧になります。
小売がECを本格導入するほど、意思決定に必要なのは「店内の結果」だけでなく、「店外(EC上)で何が起きたか」の定量情報だと痛感しました。そこで私は、Competitive Intelligence(競合の動きを外部データで捉える)という考え方も参考にしつつ、外部要因を“背景変数”として取りに行く方針に切り替えました。
この記事では、私が実際にやったことを「初めて読む方にも分かる順番」でまとめます。
結論を先に言うと
外部データ(競合価格・露出・レビュー)を定点で持つだけで、ID-POSの売上変動が「説明できる仮説」に変わります。施策を“勘”で打つのではなく、根拠を置いて優先順位を決められるようになります。私はまず1カテゴリ、1サイト、3指標から始めました。
この記事で分かること
- ID-POSに“外部データ”を足すと、売上変動の説明がどう変わるか
- ECでまず見るべき外部データ(価格・露出・レビュー)の取り方
- Octoparseを業務に組み込む際の最小ステップと運用の注意点
想定読者
- ID-POSは見ているが、原因説明や打ち手の根拠に悩んでいる方
- ECの競合状況を“数字で”把握したい小売・メーカーの担当者
- スクレイピングに興味はあるが、エンジニアリングは極力避けたい方
外部データ取得の手段として、私はノーコードでEC上の情報を定期収集できるOctoparseを試しました(ツール説明は最小限に留め、使いどころにフォーカスします)。
2. ID-POSとの活用イメージ:外部データ×ID-POSで“説明できる分析”に寄せる
2-1. まず集めた外部データは3つだけ(価格・露出・レビュー)
最初から何でも集めると運用が破綻するので、私はECに寄せて「購買に効きやすい3本」に絞りました。
- 競合の価格・SKU・在庫:値下げや品揃え変更のタイミングを定点観測する
- ECのランキング/キャンペーン露出:露出が増えた週と自社売上の変動を突き合わせる
- レビュー:件数・評価・内容の傾向を追い、変動の“納得できる理由”を補強する
検索量や天候も有効ですが、まずはEC上で直接観測できる指標を優先しました。取りに行きやすく、説明に直結しやすいからです。
2-2. なぜOctoparseを選んだのか(私の主観ベース)
同じ目的でも手段はいくつかあります。その中でOctoparseを使ってみて「業務に組み込みやすい」と感じた点は、主に次のとおりです。
| 手段 | 良い点 | つまずきやすい点 |
| 手作業(目視/Excel) | すぐ始められる | 継続・定点観測が難しい/再現性が低い |
| 自作(Python等) | 自由度が高い | 開発・保守の工数が重い/担当者依存になりやすい |
| Octoparse | ノーコードで定期収集しやすい | 対象サイト変更時に微調整が必要 |
今回は「まず運用を回して、効く指標を見極める」ことが目的だったので、スピードと継続性のバランスが良いOctoparseが合っていました。
- 自動検出(リスト認識)のおかげで、最短で“それっぽい形”まで到達できた
- テンプレート/カスタムの両方が使え、最初はテンプレで小さく試してから拡張できた
- クラウド実行で定期収集に回しやすく、日次・週次の運用が現実的になった
- 出力がCSV/Excelで扱いやすく、まずは手元の集計・検証にすぐ繋げられた
要するに、専門チームがいなくても「背景変数を持つ」ところまで持っていける感覚がありました。
特に助かったのは、収集対象のリスト構造を自動で捉えてくれる点と、定期実行に載せるまでの距離が短い点です。初回は手探りでも、2回目以降は「同じ型で回す」ことに集中できます。
2-3. 実操作イメージ:テンプレート利用/カスタムタスク作成の最小ステップ
ここは読者が一番イメージしづらいところなので、私がやった流れを“最小構成”で書きます。実際は細かい調整もありますが、最初はこれで十分でした。
(補足)初回に詰まりやすいポイントは、だいたい次の3つです。
- 一覧ページと詳細ページのどちらから取るべきか迷う(まずは一覧で必要最小限を取るのが無難)
- 次ページ設定で取り漏れる(2〜3ページで必ずテストする)
- 取得結果が途中で0件になる(行数チェックの監視を入れる)
(A)テンプレートを使う場合(まずは試す)
1. テンプレート一覧から、目的に近いもの(例:ECの価格監視/商品情報収集)を選ぶ
2. 対象サイトのURLや条件を入れて、取得対象のページを指定する
3. 取得したい項目(商品名、価格、在庫表示、レビュー数など)だけを残す
4. 数ページだけ実行して、想定どおり取れているか確認する
5. 問題なければクラウドで定期実行に回す(週次→日次の順で負荷を見ながら)

あわせて、取得したレビューや価格データをどのように商品選定に活かすかについては
👉 Amazonレビュー分析を商品選定に活用する方法 を参考にしつつ、
実運用前にはスクレイピング時の注意点や法的観点も
👉 Amazonスクレイピングにおける法的注意点 で必ず確認しておくと安心です。
(B)カスタムタスクで作る場合(対象が独自構造のとき)
1. 収集対象のURL(競合の商品一覧、ランキング、レビュー一覧など)をOctoparseに読み込ませる
2. 自動検出されたリストから「繰り返し部分(商品カード)」を確定する

3. 抽出項目(価格・商品名・在庫表示など)をクリックで選び、必要最小限にする

4. ページネーション(次ページ)を設定する


5. ローカルでテスト → クラウド定期実行へ移す


2-4. ID-POSにどう混ぜたか:まずは“週次の1枚ビュー”を作る
外部データは集めただけでは意味がありません。私は「粒度を揃える」「キーを揃える」「見る指標を絞る」の3点だけは崩さないようにしました。
キー突合は完璧を目指すより、現場で使う“代表SKU”に寄せる方が早いです。私は「JANで一致するものは素直に結合」「一致しないものは代表SKUに寄せた突合表で吸収」という2段構えにしました。
- 外部データを日次/週次に揃え、ID-POSと同じ時間軸で比較できるようにする
- JAN/自社商品コード/代表SKUで寄せ、ズレる部分は突合表で吸収する
- 見る指標は3つに固定(価格差×売上、露出×売上、レビュー×定着)
可視化としては、まず横軸を週にして、売上(またはPI値)と外部指標(価格差・ランキング・レビュー)を同じタイミングで並べました。相関を断定するのではなく、“同時に起きている現象”を見つけるだけで、次に見るべきデータや現場確認の優先度が決めやすくなります。
| 週 | 売上/PI | 価格差(自社-競合) | ランキング/露出 | レビュー(件数/評価) |
| W1 | — | — | — | — |
| W2 | — | — | — | — |
2-5. 私が詰まったケース:外部を置いたら、説明が一本通った
ある週、カテゴリ全体としては大きく崩れていないのに、自社の主力SKU群だけが目に見えて鈍化しました。ID-POSでは鈍化は確認できるものの、原因が棚・在庫・販促なのか、競合の動きなのか、EC上の露出なのかが切り分けられませんでした。
そこで競合のEC商品ページを定点で見たところ、その週に限ってポイント施策が強まり、実質価格差が広がっていました。加えてランキングでも競合SKUが上位に入り、レビュー件数も短期間で増えていました。社内データだけでは「なんとなく競合が強かった」で終わっていたものが、「価格差の拡大 × 露出増 × 評価の積み上がり」という説明 になりました。
重要なのは原因を断定することではなく、次の打ち手を“仮説に沿って”選べる状態にすることです。価格差が主ならポイント設計やセット販促、露出が主なら露出面の確保や商品ページ改善、レビューが主なら低評価理由の改善——議論が現実的になります。
こうした整理を可能にするのが、競合商品の価格、ポイント施策、ランキング、レビュー件数といったEC上の公開情報を定点で捉え、時系列で並べて見る視点です。
商品ページ情報や価格データを継続的に取得し、分析に活用する考え方は、
EC領域のデータ活用事例としてOctoparseの公式ユースケースでも整理されています。
また、マーケットプレイス上の外部データを意思決定に組み込んだ取り組みは、
eBayのカスタマーストーリーとして紹介されています。
3. 導入・運用のポイント:続く形にするための注意点
3-1. 法規・ルール面:「取れる」と「取ってよい」は別
スクレイピングは技術的に可能でも、運用としては「取ってよい範囲」を守ることが前提です。取得対象サイトの利用規約、robots.txtの方針、アクセス負荷(短時間に大量アクセスしない)には必ず配慮しました。組織で運用するなら、対象サイト/取得頻度/利用目的を明文化し、法務・コンプライアンス観点で先に確認しておく方が安全です。
3-2. 運用でハマりやすい点(実務の注意点)
実務でつまずきやすいのは「一度作って終わり」にならない点です。ECサイトはページ構造が変わりますし、表示の揺れもあります。私は次の点を運用ルールとして持つようにしました。
- 取得件数の急減・ゼロを検知するチェック(アラート)を入れる
- 取得項目は最小限から始め、効くと分かってから増やす
- 日次で見るもの/週次で足りるものを分ける
- まずは「1カテゴリ×1サイト」で検証し、効いた指標だけ横展開する
クラウドで定期実行にすると便利な反面、失敗しても気づかないリスクがあります。私は行数と更新日時だけは最低限チェックし、極端に少ないときはすぐ原因を見に行くようにしました。
また、責任分界(誰がジョブを見るか/失敗時に誰が直すか)を曖昧にすると続けるほど負債になります。私は“取得できているか”の監視だけは分析側で持ち、対象URLや項目の増減は目的が明確なときだけ実施するルールにしました。
3-3. まとめ:まずは「1カテゴリ×1サイト×3指標」から
Octoparseの価値は「スクレイピングができる」ことそのものではなく、ID-POSの変動に“説明力”を持たせられる点にあります。社内データだけだと議論が推測になりがちですが、外部の価格・露出・レビューという背景変数が入ると、仮説が現実味を帯びます。まずは小さく始め、効いたものだけを残して伸ばす。これが一番、現場で続きます。
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